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前橋地方裁判所 平成元年(行ウ)4号 判決

原告

高陽タクシー株式会社

右代表者代表取締役

古知一郎

右訴訟代理人弁護士

富岡恵美子

嶋田久夫

三宅弘

金子武嗣

河村利行

被告

関東運輸局群馬陸運支局長

大谷好男

右指定代理人

浅野晴美

外一二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、平成元年五月一九日にした原告の同年二月二八日付け一般乗用旅客運送事業の事業計画変更(事業用自動車の総数)認可申請に対する却下処分を取り消す。

第二事案の概要

一争いのない事実

1  当事者

(一) 原告は、群馬県高崎市の全域及び前橋市や同県群馬郡群馬町において、「高陽タクシー」の名称で一般乗用旅客自動車運送事業(いわゆるハイヤー、タクシー事業)を営む株式会社である。

(二) 被告は、運輸大臣が平成元年法律第八三号による改正前の道路運送法(以下「運送法」という。)一八条一項本文により有する一般乗用旅客自動車運送事業の事業計画変更の認可に関する権限につき、同法一二二条一項一号、二項及び平成元年政令第三一九号による改正前の同法施行令一条三項二号により委任されているものである。

2  原告の事業計画変更の認可申請

原告は、平成元年二月二八日付けで、被告に対し、運送法一八条一項に基づき、別紙申請理由記載のとおりの理由を付して、事業計画のうち、事業用自動車の総数二三台を更に三七台増車する旨の一般乗用旅客自動車運送事業の事業計画変更の認可申請(以下「本件申請」という。)をした。

3  被告の却下処分

被告は、同年五月一九日、運送法六条一項四号に適合しないとの理由により、原告の本件申請を却下する処分(以下「本件処分」という。)をした。

二被告の主張

1  原告に対する監査の実施と関東運輸局長による処分

(一) 被告の自動車運送事業者に関する監査は、運送法一二六条の規定を受けて定められている自動車運送事業等監査規則(昭和三〇年一二月二四日運輸省令第七〇号。以下「監査規則」という。)の定めるところにより、運輸局長又は陸運支局長が特に必要と認めた場合に行う特別監査を除き、監査計画を定めその計画に基づいて実施されており(同規則四条二項)、右監査計画を定める場合の監査対象事業者には、①前回監査から期間の長いもの、②苦情、違反行為があるとの風評等情報のあるもの、③増車申請が提出されたもののいずれかに該当する者が選定されているところ、原告は、①(前回監査昭和六〇年一月一六日実施)に該当したことから、昭和六三年度第二、四半期の監査の対象事業者に選定された。

被告は、昭和六三年八月三〇日、原告に対する監査を同年九月一日に実施する旨を原告の責任者飯野伸(以下「飯野」という。)に電話で伝え、同日、原告に立ち入り、飯野立会いの下で監査を実施した(以下「本件監査」という。)。監査担当者は、本件監査の実施に先立ち、飯野に監査時提出書類一覧表を示して、運行管理状況等の関係帳票類の提示を求め、これに応じて提出された運転日報、乗務員台帳等の帳票類について調査するとともに、監査中に生じた疑問点等について、その都度飯野に弁明を求め、かつ、書類の提示又は申出等を受けた。その結果、別紙監査結果のとおり、一六項目の違反事実が確認され、これについては、飯野が、監査終了時にその内容を確認のうえ自認書を提出した。

(二) 被告は、本件監査の結果から、原告について関東運輸局長に進達することが相当な事案であると認め、右監査結果を同局長に進達したところ、同局長は、法令違反の内容、当該地域の状況、管理運営の状況等を総合的に検討・審査した結果、運送法四三条の規定に基づき、原告に対し、同六三年一二月八日付けで輸送施設(車両)の使用停止処分(停止車両三両、停止期間一五日以下「本件停止処分」という。)及び付帯命令処分(自動車検査証の返納及び自動車登録番号標の領置)を行うとともに、同日付け文書をもって改善警告処分(以下「本件警告処分」という。)を行った。

2  増車申請の審査基準

事業計画の変更申請に対する認可の基準は、運送法一八条二項によって、免許審査の基準に関する同法六条が準用されているところ、運輸大臣より権限の委任を受けている各地方運輸局長が、事業の種類及び事業区域に応じ、実情に沿うよう具体的に免許の基準を定めて公示しているほか、更に事業計画変更認可の権限委任を受けた各地方運輸局陸運支局長が、同条項に定める免許審査の基準のうち、事業計画及び事業遂行能力に関する事項について、地域の実情を考慮して具体的な審査基準を定めてこれを公示している。

被告は、関東運輸局長の昭和六二年三月一四日付け公示にかかる「一般乗用旅客自動車運送事業(一人一車制個人タクシー及びハイヤーを除く。)の免許申請及び事業計画変更(増車)認可申請事案の取扱について」(以下「受付基準」という。)の規定に基づき受理のうえ、被告の同日付け公示にかかる「一般乗用旅客自動車運送事業(一人一車制個人タクシー及びハイヤーを除く。)事業計画(事業用自動車の総数)の変更事案に係る審査基準」(以下「増車基準」という。その内容は、別紙増車基準のとおり、運送法六条一項に定める免許審査基準中、事業計画及び事業遂行能力に関する七項目である。)に基づき厳正かつ公正に審査し処理している。

3  本件処分の適法性

被告は、本件申請について、群馬陸運支局備え付けの事業者台帳と照合のうえ、当該地域の需給関係、原告の経営成績及び事業運営実態につき本件監査の結果を基に作成した調査書を増車基準に照して審査したところ、次の事実が認められたことから、運送法六条一項四号(本号にいう能力の有無は、増車基準により、管理運営体制、遵法精神及び損害賠償能力等を審査する。)に適合しないと判断し、本件処分をしたものである。なお、同項二号については、同項四号に適合しないことが明らかになったことから、審査を省略した。

(1) 増車基準3(原告の管理運営体制)について

原告は、同基準3(1)に関して、運行管理者の処理すべき事項のうち、点呼の実施、運転者の過労防止の措置、乗務記録の記載内容及び整備・保存、乗務員証の返還及び整理・保存、乗務員台帳の作成及び記載内容等並びに非常信号用具の備え付けの六事項を的確に遂行しておらず、また、整備管理者の処理すべき事項のうち、運行前点検結果に基づく運行可否の決定を的確に遂行していなかった。

さらに、同基準3(2)に関して、新規採用者の指導教育を的確に遂行しておらず、同基準3(3)に関しても、増車三七両に対する有資格者の運転者が確保されていることの挙証を全くしていなかった。

よって、被告は、原告の管理運営体制が整っていないものと認めた。

(2) 同基準4(原告の遵法精神)について

原告は、前記一六項目の法令違反により本件停止処分を受けており、しかも、右違反内容は、旅客自動車運送事業の最大の使命である安全に関する法令事項のほとんどを遵守していないものであった。また、同基準4(4)について、原告は、昭和六二、六三年度の営業報告書を提出期限経過後であるのに提出していなかった。

よって、被告は、原告の事業者としての遵法精神が欠如しているものと認めた。

なお、運送法は、自動車運送事業における運行の安全を確保し、運送事業の適正な経営と発達を維持するためには、社会・経済の変化に迅速かつ適切に対応しなければならないことから、同法三〇条により運送事業者が遵守すべき事項の具体的な内容について運輸省令に委ねている。すなわち、同条による委任を受けた運輸省令を遵守することによって、はじめて自動車運送事業の適正な運営及び公正な競争の確保が図られ、道路運送事業に関する秩序が確立するものである。そして、事業の適正かつ安全な運営を確保するうえで、遵守すべき事項を遵守しているという遵法精神が事業者に不可欠であることから、同基準4(2)が設けられたものであって、この趣旨に照らすと、同条により委任を受けて規定された運輸規則等の運輸省令に違反して車両の使用停止処分を受けた場合も当然に同基準4(2)に該当する。

(3) 同基準5(原告の資金計画)について

同基準5(免許基準3ないし5を準用)に関して、原告は、本件申請書に「自己資金ならびに金融機関借入金」と記入したのみで、これに関する書類を添付しておらず、その挙証を全くしていなかったため、原告の資金計画が合理的かつ確実であるとは認められなかった。

よって、被告は、原告が合理的かつ確実な資金計画を有しているものと認めなかった。

(4) 増車基準6(損害賠償能力)について

同基準6(免許基準8及び9を準用)に関して、原告は、本件の申請書に対人(一名につき)八〇〇〇万円以上の任意保険又は共済に計画車両のすべてが加入する計画についての書類を添付しておらず、その挙証を全くしていなかったし、また、前記のとおり営業報告書を提出していなかったため、同基準8ただし書のこれと同等の損害賠償能力があると認められる場合であることを認めることもできなかった。

よって、被告は、原告が損害賠償能力を有しているものとは認めなかった。

4  事前の聴聞手続を実施していない点について

本件申請のような増車申請は、憲法二二条一項の職業選択の自由の制限という特質の有無、運送法一二二条の二等の事前手続に関する規定の有無及び増車審査が多数の申請人のうちから小数特定の者を選択する競願の事案でなく、いわゆる単願の事案であること等の点で後記最高裁判所昭和四六年一〇月二八日第一小法廷判決・民集二五巻七号一〇三七頁と事案を全く異にしており、また、後記最高裁判所平成四年七月一日大法廷判決・判例タイムズ七八九号七六頁は、「公益の内容、程度、緊急性」は、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度とともに考慮される総合較量の一要素であって、「公益の内容、程度、緊急性」が乏しい場合に、すべての行政処分が違法となる旨を判示している訳ではない。

行政手続であっても、憲法三一条の精神が尊重されるべきことを否定するものではないが、すべての行政処分について、不利益を被る関係者に対して、告知、弁解、防禦の機会を与えなければならないわけではなく、その要否については、当該処分の根拠とされた実定法の趣旨、すなわち、当該処分について行政庁の処分要件を定める授権規定に内在する黙示の要請によると解するべきであるところ、増車申請は、既に免許を受けている事業者に対する増車の許否の問題であって、同法二二条一項の職業選択の自由の制限という特質をもたないこと、増車審査手続には、運送法一二二条の二の適用がなく、法令上事前の聴聞手続に関する規定がないこと、増車審査は、多数の申請人のうちから小数特定の者を選択するものである個人タクシー事業の免許と異なり、審査の過程で当該地域の需給バランスを考慮するものの、当該年度の当該地域での増車台数が限定されているものではなく、個人タクシー事業の免許の場合ほどには、「事実の認定につき行政庁の独断を疑うことが客観的にもっともと認められるような不公正な手続をとってはならない」という要請は強くないというべきであること、また、増車審査により当該地域の道路運送の秩序が維持され、結果として利用者に対するサービスの低下が防止されること等を考慮すれば、法は、増車審査において、事前の聴聞手続を保障しているものとは解されない。

なお、増車審査については、法令上事前の聴聞手続の規定がないが、前記のとおり、適切かつ公正な審査を行うため、同法六条一項を受けて、被告が同項を具体化した増車基準を設けて公示し、群馬県ハイヤー協会に通知のうえ同協会あるいは高崎地区ハイヤー協会を通じて増車基準を説明し、その内容を周知徹底させることで、事業者に対し、予め増車申請をする際に主張及び証拠の提出をすべき事項を明らかにしていたものである。

5  本件申請の対象が特殊需要に対応するものでないことについて

増車申請の受理及び審査の基準は、同一期間における当該地域の需要供給関係、申請事業者の経営成績等の判定をすることにより、申請事案相互間における審査を公平かつ迅速に行うことを可能にして、需要最盛期までに処分を行おうとするものであって、①相互間に競願関係の生ずる可能性の少ない寝台車、車椅子専用車に対する需要、専属契約の需要等に応じる事案(特殊な需要に応ずる事案)、②当該増車申請の対象需要が一般タクシーの需要と異なり、他のタクシー需要に与える影響が少ないと考えられる国民体育大会等により発生する一時的な需要に応じる事案等(臨時増車その他特に公益上必要のある事案)、又は③同一期間における当該地域の需給関係を考慮する必要性が少なく、申請者相互間の審査の公平を欠くおそれが少ない当該区域を事業区域とする全事業者の対応によって可能となる急激な需要増加への対応又は政策目的による増車事案(一括大量増車事案)等の場合につき、増車申請の受理及び審査の基準の一部を適用しないことができる(受付基準3(2)、増車基準7(2))と定めているに過ぎないところ、本件申請は、右例外の事案に該当するものでない。すなわち、増車審査は、運送法六条一項に掲げる各要件に関し、当該事業区域の需給関係、当該事業者の能力、事業計画の内容等を考慮し、各申請について個別に判断するものであるから、午後七時から午前三時までの時間帯の増車について、すべて特殊な需要に対応するものとして受付基準及び増車基準の一部を適用しないとすれば、各地域の需給状況及び各事業者の能力等増車審査の判断において最も重要な要素を無視して増車の許否の判断をすることとなり、著しく適正さを欠いた判断となるといわざるを得ず、結局、本件申請は、特殊な需要に対応するものとはいえない。

なお、ブルーラインタクシーとは、労働力の確保が困難な状況下で首都圏の深夜の輸送力を確保する観点から、比較的需要の減少する土曜日及び日曜日の輸送力を深夜の輸送に振り替える手段として、増車を認める期間を限定して、東京都特別区、三鷹市及び武蔵野市を事業区域とするタクシー事業者に認められた一括大量増車について、右タクシー事業者らが名付けたものに過ぎず、法令や増車基準上にブルーラインタクシーという概念、種類がある訳ではない。

三原告の主張

1  裁決前置について

運送法一二一条によれば、事業計画変更に関する処分の取消しの訴えは、審査請求の裁決を経た後でなければ提起できない旨定められているが、本件処分については、裁決によって是正されることが予想されず、裁決前置が無意味不合理であるので、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)八条二項三号の場合に該当し、処分の取消しの訴えを直ちに提起することができるものである。

2  本件処分の違法性について

(一) 告知聴聞の機会を与えなかった手続的違法

何人も行政庁から不利益処分を受けるときは、事前にその事実を告知され、その事実に対し、反論に係る証拠を提出するための弁論、聴聞の機会を与えられるべきであることは、憲法三一条の要請であるところ、判例上、少なくとも自動車運送事業の免許制におけるように、職業選択の自由の規制が問題である場合には、聴聞に関する法の定めが抽象的であっても、法が聴聞による審理手続を設定した意義と性格に照らして、免許申請者その他の利害関係人は、免許の許否決定にかかる争点の開示を受け、これに対する主張・立証、反論・反証の機会が与えられなければならないことが認められており(最高裁判所昭和四六年一〇月二八日第一小法廷判決、同昭和五〇年五月二九日第一小法廷判決・民集二九巻五号六六二頁)、また、達成しようとする公益の内容、程度、高度かつ緊急の必要性等を総合衡量してはじめて事前の告知、弁解、防禦の機会を与える旨の規定がなくても同法三一条に違反しない場合もあるとして、公益の内容、程度、高度かつ緊急の必要性等が乏しければ、事前手続の欠如が同条違反になることを明らかにしている(同平成四年七月一日大法廷判決)。

そして、運送法一八条一項は、一般自動車運送事業者が事業計画を変更しようとするときは運輸大臣の許可を受けなければならないことを定め、同条二項は、その認可基準につき同法六条を準用しているところ、本件申請は、原告の職業選択に関するものであって、同法一八条一項に基づくものであるから、同法六条に関する適正手続についての右判例理論が当然に適用されるものといわなければならない。

また、増車基準は、例えば、同基準3(1)(「事業の適正な運営を確保するため、必要な」及び「的確に実施されており」の部分)、(2)(「的確に実施されており」の部分)、(3)(「事業計画を遂行するに足る」の部分)、4(2)(「適切に行っていること」の部分)、5(「適切なものであり」及び「合理的かつ確実なものであること」の部分)及び6(「上記と同等の損害賠償能力があると認められる場合は」の部分)が、極めて抽象的かつ曖昧さを伴うものであって、事実の見方によっては問題を伴うものであり、その内容が一義的なものではなく、微妙、高度な認定を要するものであるし、同基準5及び6の基準は、原告の主張立証をまってはじめて明らかになるものである。それ故、被告は、憲法三一条及び運送法上の適正手続の要請として、右基準の適用上必要とされる事項について、原告に対しその主張と証拠提出の機会を与えるべき義務があったし、実際、全国各地の運輸行政においては、事業者から増車申請がされた場合には、申請事業者やその他の事業者に対する告知聴聞の機会が与えられていた。しかるに、被告は、異例なことに、本件申請を審査するについて、原告に告知聴聞の機会を与えず、一方的に却下したものである。

よって、被告の本件処分は、公正な手続により認可の許否についての判定を受けるべき原告の法的利益を侵害したものとして、憲法三一条及び運送法に違反するものである。

(二) 特別の需要の場合の要件(増車基準7(2))を考慮していない手続的違法

(1) 本件申請の理由

一般自動車運送事業を経営しようとする者は、運送法四条により運輸大臣の免許を受けなければならず、タクシー事業は、同法三条二項三号の一般乗用旅客自動車運送事業として、右規制の対象となっている。そして、タクシー事業については、右免許制度や運転者の資格制限を含む広範な運輸行政の監督下に、事業の適正な運営及び公正な競争の確保が図られ、タクシー利用者の利便が図られている。

ところが、自家用車に乗車して飲みにきた酔客に代わって、右自家用車を運転して酔客を自宅まで送り届け、その際一緒について来たもう一台の自動車で再び右運転者を盛り場まで連れ戻すといった運転代行という業種があり、右代行行為自体は、運送法等法令上規制の対象とはされておらず、その代行業者の運転手も第一種自動車運転免許以外の法的資格を特に要求されていない。そのため、代行業者の運転手には、免許取り立ての者や、昼間は他の職業に就いており夜だけのアルバイトとして運転を行っている者が数多く見られ、交通事故発生の危険性は著しく大きいものといわざるをえないし、実際に代行業者の運転手により惹起された死亡事故を含む交通事故が頻発している。そして、このような交通事故が起きても正当な賠償が受けられる保障は全くない。

しかも、群馬県高崎・前橋地区におけるタクシー事業者及び車両の数が、高崎市で一四事業者五四八車両、前橋市で一五事業者五四八車両であるのに対し、右代行業者及び車両の数は、高崎市で一五事業者二五二車両、前橋市で二六事業者二一三車両(昭和六一年八月末現在の群馬県警の調べによる。)と極めて大きなものとなっており、これらのうち、タクシー事業の免許を持たない事業者の保有する車両(タクシー事業の免許を有する原告ら保有の一一三車両を除いたもの。)の大部分が、夜間、現実に無免許のタクシー営業に供されている(また、無免許のタクシー業者には、運転代行業者を名乗る者が多いのが実情である。)。このような運転代行業者による無免許タクシー事業の営業は、法に違反するばかりか、特に高崎市内においては、常に市内中心部の駐停車禁止の路上に不法駐車し、夜間における繁華街の交通秩序を大きく混乱させているうえ、無免許による客待ち、運送行為などのタクシー業務を平然と行っており、また、利用客との料金をめぐるトラブルがあったり、売上が暴力団の資金源や犯罪発生の温床となっているとの批判さえ聞かれるなど社会問題ともなっている。そして、今後ともこのような違法行為が平然と継続されるならば、未熟な旅客運送の運転に起因する悲惨な交通事故も起こり得るし、交通秩序の阻害行為に起因する様々な要因は治安の悪化に繋がり、大きな社会問題へと進展してくるものでもある。そのため、タクシーの利用者や乗務員、その他常識ある人々が、関係官署に対し、違法な無免許タクシーの早急な取締りを強く要望しているにもかかわらず、これを取り締まるべき運輸省、被告、群馬県高崎・前橋両警察署は、有効な取締り手段を何ら講ずることなく、事実上放置しているといわざるを得ない現状にある。

原告は、右のような無免許でタクシー営業を行う運転代行の弊害を根本的に解決しながら、この無免許タクシーの運転による乗客運送の需要をまかなうためには、正規の免許を受けたタクシー事業者が運送の供給力を増し、しかも、その増加を現在の無免許タクシーの営業時間内である午後七時より午前三時の時間帯に運行するブルーラインタクシーによってまかなうことが妥当であると考えて本件申請に及んだものである。

(2) 被告は、本件申請が右のとおり特別の需要に応じるブルーラインタクシーの増車申請であるのに、増車基準7(2)を適用せずに、極めて過重な要件の下に本件処分を行ったものであるから、本件処分は違法なものである。

なお、本件と同様のブルーラインタクシーの増車申請について、関東運輸局千葉陸運支局の増車の基準では、「法令違反により車両の停止処分を二回以上受けたものでない」とするほか、運転者や収容能力等の人的物的施設面の条件を問題とするだけであって、同基準3(1)、(2)、4(4)、5及び6に対応する事項については一切問題としておらず、また、東京陸運支局の増車の基準も同様と思われ、本件処分は公平を欠くものでもある。

(三) 運送法六条一項四号への適合を認めなかった実体的違法

同法一八条二項が準用する同法六条に定める要件は、①当該事業計画の変更が運送需要に対し適切なものであること、②当該事業計画の変更によって当該路線又は事業区域に係る供給運送力が運送需要量に対し不均衡にならないものであること、③当該事業計画の変更の遂行上適切な計画を有するものであること、④当該事業計画の変更を自ら的確に遂行するに足りる能力を有するものであること、⑤その他当該事業計画の変更が公益上必要であり、かつ、適切なものであることであり、運輸大臣及びその権限の委任を受けた被告は、事業計画変更申請が基準を充たす場合には当然に認可しなければならないものであるところ、原告は、次のとおり、増車について自ら的確に遂行する能力を有しており、同条一項四号に該当することが明らかであった。

(1) 増車基準3(管理運営体制)については、乗務員台帳について運転者の氏名記載が不適切であること、乗務員証について事業者の名称の記載が不適切であること、乗務員証についての整理保存が不適切であること、応急器具等の備付けのない事業用自動車があったこと、点呼の実施及び実施結果の記録が不適切であったことについてはいずれも該当事実がなく、運行管理者が被告の行う研修を受けていなかったことについては、運行管理者の資格を有する飯野が昭和六二年度の研修を受けており、整備管理者が被告の行なう研修を受けていなかったことについては、整備管理者の資格を有する竹内整備士が同年度の研修を受けており、いずれも問題がない。

(2) 同基準4(原告の遵法精神)については、同基準4(2)上、運送法に抵触する行為による輸送施設の使用停止処分が問題とされており、運輸規則に抵触する行為は含まれていないのであるから、使用停止処分の一切が問題となるものではなく、運送法の体系の中で、重大な違反行為による使用停止処分だけが同基準に該当するものと解釈すべきである。

また、同基準4(4)は、各種報告書の適切な提出を求めているところ、確かに、原告は、昭和六二年三月三〇日から同年九月三〇日までの営業報告書を提出していない。しかしながら、これは、原告が、当時会社更生手続中(昭和五一年三月二九日会社更生手続開始)であって、昭和六二年一〇月三一日更生手続終結までの決算時期が変更になって漏れたに過ぎず、しかも、その間も裁判所の監督下で厳正な運営がされていたし、提出漏れについて被告からの指摘もなかった。それ故、裁判所の厳正な監督下の会社更生手続中に六か月間営業報告書を提出していなかったとしても、適切性を欠くものではないし、ましてや、原告の遵法精神が問題となるものでもない。なお、原告は、昭和六一年三月三〇日から昭和六二年三月二九日まで、同年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの各営業報告書を提出している。

(3) 同基準5(原告の資金計画)及び6(損害賠償能力)については、被告が、原告の主張立証を促すべく、告知聴聞の機会を与えるべきであったし、原告は、右機会を与えられていれば、右各基準を充たしていることの主張立証をなし得た。

また、本件申請は、弊害の多い白タク運転代行を適切で安全かつ良質な運送手段であるタクシー業者に委ねて行くという極めて重要な意味をもつ公益的なものであって、同法一八条二項、六条の基準を充たすものでもあった。

よって、本件処分は、同法一八条一項、二項に違反する違法なものである。

四争点

1  本件処分には、事前の適正手続を欠く違法(憲法三一条及び運送法違反)が存するか。

2  本件処分には、増車基準7(2)を適用しなかった違法が存するか。

3  本件処分には、運送法六条一項四号(同法一八条一項、二項)への適合を認めなかった違法が存するか。

第三当裁判所の判断

一裁決前置について

原告は、平成元年八月三〇日、本件処分についての審査請求に対する裁決を経ずに本件訴えを提起したことが記録上明らかである。しかしながら、本件記録に編綴してある関東運輸局長作成の平成元年一二月七日付け「裁決書の謄本の送付について」と題する書面(写し)によれば、原告は、同年六月一四日、被告が同年五月一九日付けでした本件処分について、関東運輸局長に対する審査請求をし、同局長は、同年一二月七日付けで、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決書の謄本を原告に送付したことが認められるのであって、このように、原告は、既に、裁決を経ているから、運送法一二一条、行訴法八条一項ただし書に定められた裁決前置についての瑕疵は治癒されたものというべきである。

したがって、本件訴えは、適法なものと解するのが相当である。

二争点1(事前の適正手続を欠く違法の存否)について

1  運送法一八条が定める事業計画変更の認可の審査については、同法一二二条の二の適用はなく、他に事前の聴聞手続を保障する明文の規定がない。しかしながら、行政処分について事前の聴聞手続の保障が及ぶか否かは、当該処分の根拠となった行政手続法規の解釈によって判断されるべきものであるから、右明文の規定の存在しないことをもって、直ちに認可の審査に事前の聴聞手続の保障が及ばないものと解することは、憲法三一条の趣旨に照らして正当ではない。そこで、運送法の解釈上、本件申請に事前の聴聞手続の保障が及ぶものであるか否かを検討する。

まず、運送法一二二条の二の明文で事前の聴聞手続が規定されている事業免許の審査についてみるに、事業免許の審査は、同法六条の定める審査基準に則ってされるものであるが、右基準の内容は、著しく抽象的かつ概括的なものであるため、客観性のある適正かつ公正な決定を保障するべく、同法の趣旨に沿う具体的な基準を設定して、客観的で公正かつ合理的な免許審査手続の運営がなされることが要請されるのであって、同法一二二条の二は、このような公正かつ合理的な手続の運営を免許の申請者に対して保障するため、事前の聴聞手続が実施されるべきことを予定しているものと解することができる。そして、右保障にかかる事前の聴聞手続は、これが設けられている右法の趣旨にかんがみると、単に決定の基礎となる具体的事実についての多面的、客観的な資料の収集が可能であるというだけでなく、申請者において、右具体的事実に関する諸般の証拠その他の資料と意見を提出し、これらを決定に反映させることを実質的に可能ならしめるものである必要があり、また、聴聞手続に際しては、行政庁からみて申請内容に問題があるとしても、申請者においてそのように考えていない場合もあるから、その注意を喚起させ、弁解の機会を十分に与える必要があるものと解するのが相当である。

そして、事業免許及び事業計画変更の認可のいずれもが、憲法二二条一項に保障された職業選択の自由の制約をなすものであることに変わりがないうえに、認可の審査手続についても、運送法一八条二項により同法六条の抽象的かつ概括的な審査基準が準用されていることに照らすと、同条の免許審査に関する法の趣旨は可能な限り同法一八条の認可審査についても及ぼされるべきものと解するのが相当であるところ、ことに、本件申請のように、事業用自動車の総数二三台を更に三七台増車し、その事業規模ないし経営状況等の業態を大きく変えることが予定されている場合については、新規免許との比較において、職業選択の自由との関係で、いずれがより制約的であるのか優劣をつけがたいところであるから、少なくとも本件申請には、同法一二二条の二の趣旨が類推され、事前の聴聞手続が保障されるものと解するのが相当である。

しかしながら、右のとおり本件申請について事前の聴聞手続が保障されるものとしても、その手続が実施されなかったことが、直ちに本件処分に影響を及ぼす可能性が全くないような場合、あるいは、事前の聴聞手続が実施されたと同視しうる程度に、実質的な主張立証の機会が与えられていた場合(ただし、単なる事情聴取では足りず、認可審査において問題となる事項についての聴取であることが、被処分者である申請者に認識されたうえでの聴取であることを要する。)には、たとえ事前の聴聞手続が実施されなかったとしても、右法一二二条の二の趣旨に抵触しないものと評価できるところであるから、本件処分の取消事由とはならないものと解するのが相当である。

なお、審査基準の内容が微妙かつ高度の認定を要する場合は、その度合いに応じて事前の聴聞手続を実施することが、より強く要請されるものと解される。

2(一)  これを本件についてみるに、本件処分に至る経緯及び本件処分の内容は、次のとおりである。

(1) 本件監査の実施と本件停止処分等

被告の自動車運送事業者に関する監査は、運送法一二六条の規定を受けて定められている監査規則の定めるところにより、運輸局長又は陸運支局長が特に必要と認めた場合に行う特別監査を除き、監査計画を定めその計画に基づき実施されており(同規則四条二項)、右監査計画を定める場合の監査対象事業者には、①前回監査から期間の長いもの、②苦情、違反行為があるとの風評等の情報のあるもの、③増車申請が提出されたもののいずれかに該当する事業者が選定されている。そして、被告が監査計画による監査対象事業者を選定し、監査の実施を決定した場合は、当該事業者に対し、監査予定日の前日に監査を実施する旨を連絡のうえ、監査当日、監査担当職員が、当該事業者の事業場に立ち入って、その管理者の立会いの下で帳票類の照合、施設の確認、管理者等に対する聞き取り調査等を行い、法令に抵触すると思料した事項については、これを指摘のうえ管理者等に説明を求めて事実の確認をするとともに、監査終了時に設けられる講評においても、右指摘事項の内容を詳細に説明し、再度事実関係の確認を行っており、監査及び右講評の際に、右指摘事項が法令に抵触するものでない旨の弁明や証拠書類の提示等があれば、これを違反事項としておらず、その弁明等のないことを確認のうえ、指摘にかかる違反事実を確認する「自認書」を徴している(〈書証番号略〉、証人島崎満雄、弁論の全趣旨)。

被告は、原告が、①の長期未監査(前回監査昭和六〇年一月実施)に該当したことから、昭和六三年七月一日、昭和六三年度第二、四半期の監査の対象事業者に選定し、同年八月三〇日、原告に対する監査を同年九月一日に実施する旨を原告の責任者飯野に電話で伝え、同日、原告に立ち入り、飯野立会いの下で本件監査を実施した。監査担当者は、本件監査の実施に先立ち、飯野に運行管理状況等の関係帳票類の提示を求め、これに応じて提出された運転日報、乗務員台帳等の帳票類について調査するとともに、監査中に生じた疑問点等について、その都度飯野に弁明を求め、かつ、書類の提示又は申出等を受けた。その結果、別紙監査結果のとおり、一六項目の違反事実が確認され、これについては、飯野が、監査終了時に内容を確認のうえ自認書を提出した(〈書証番号略〉、証人島崎満雄、証人飯野伸、弁論の全趣旨)。そして、飯野は、本件監査の時点で、原告において本件申請をする予定であることを了解しており、また、群馬県ハイヤー協会を通じて増車基準が各事業者に配付され、また、三山タクシー株式会社で開催された高崎地区ハイヤー協会四月地区会においても、右基準の説明がされていたのであるから、増車基準を知っていた(〈書証番号略〉、証人斉藤克己、証人飯野伸)。

被告は、本件監査の結果から、原告について関東運輸局長に進達することが相当であると認め、右監査結果を同局長に進達したところ、同局長は、法令違反の内容、当該地域の状況、管理運営の状況等を総合的に検討・審査した結果、運送法四三条の規定に基づき、原告に対し、同年一二月八日付けで本件停止処分及び付帯命令処分(自動車検査証の返納及び自動車登録番号標の領置)を行うとともに、同日付けの文書をもって本件警告処分を行った(〈書証番号略〉、証人島崎満雄)。

なお、本件停止処分は、他の処分事例と比較して均衡を欠くものとはいえず(〈書証番号略〉、関東運輸局に対する調査嘱託の結果)、また、原告は、右各処分に対する異議申立てないし審査請求をしていない(弁論の全趣旨)。

(2) 増車申請の審査基準

事業計画の変更申請に対する認可の基準は、運送法一八条二項によって、免許審査の基準に関する同法六条が準用されているが、同条一項各号の基準は、それのみでは抽象的かつ概括的であるし、特に一般乗用旅客自動車運送事業の事業計画変更(増車)の認可については、新たにタクシー事業を始めようとする免許申請と異なり、申請者が既にタクシー事業者であること及び地域の特性に即した具体的な基準による迅速適正な処理が望まれるところから、運輸大臣より権限の委任を受けている各地方運輸局長が、事業の種類及び事業区域に応じ、実情に沿うよう具体的に定めて公示している免許の基準によるほか、更に事業計画変更認可権限の委任を受けた各地方運輸局陸運支局長が、同条項に定める免許審査の基準のうち、事業計画及び事業遂行能力に関する事項について、地域の実情を考慮して具体的な審査基準を定めてこれを公示し、当該管轄地域の関係事業者に周知させるとともに、右審査基準を基本に他事項も含めて総合的に判断し、適正な処理を図っているところ、被告においても、関東運輸局長の昭和六二年三月一四日付け公示にかかる受付基準の規定に基づき受理のうえ、被告の同日付け公示にかかる増車基準(その内容は、別紙増車基準のとおり。)に基づき厳正かつ公正に審査し処理しているものである(〈書証番号略〉、証人斉藤克己、弁論の全趣旨)。

(3) 本件申請の審査と本件処分

被告は、本件申請が増車申請の受理期間(四月一日から六月三〇日まで)外の平成元年二月二八日に出されていたが、次年度の受付期間に申請されたものと同時期に処理する趣旨でこれを受理し、その際、被告の担当職員である斉藤克己が飯野に対し、原告の資金(増車基準5及び6の対象事項)や増車にかかる運転手の確保(同基準3(3)の対象事項)についての質問をしたが、的確な応答を得られなかった(〈書証番号略〉、証人斉藤克己)。そして、本件申請の受理後、本件申請について、群馬陸運支局備え付けの事業者台帳と照合のうえ、当該地域の需給関係についての輸送実績報告書、前記認定の本件監査の結果を基に作成した原告の経営成績及び事業運営実態についての調査書(なお、本件処分がなされるまでの間に、本件警告処分の理由とされた対象事項についての改善報告書の提出はなかった。)さらに、前記認定のとおり適法になされた本件停止処分の事実等を増車基準に照らして審査した結果、運送法六条一項四号(本号にいう「当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力」の有無は、増車基準により、管理運営体制、遵法精神及び損害賠償能力等の面から審査される。)に適合しないと判断し、本件処分をしたものである(〈書証番号略〉、証人斉藤克己、弁論の全趣旨)。

(二) 以上の認定事実によれば、①被告が、増車基準を公示するなどして、これを原告を含めた管轄内の事業者に周知させる措置をとっており、原告は、本件申請時に同基準を了解していたこと、②被告の担当職員が、本件申請の際、飯野に対し、同基準3(3)、5及び6の対象事項に関する事実を尋ねたが、飯野は、的確な応答をしなかったこと、③本件申請から本件処分までの間に右尋ねられた事項を含めて増車基準の検討を更に行う時間的余裕の存したこと、④原告は、本件申請前に実施された本件監査の結果により本件停止処分及び本件警告処分を受けたものであるところ、右各処分を争うこともなく、また、その後に本件警告処分についての改善報告書を提出しておらず、そのため、本件申請は、右各処分に関して同基準4(2)及び(3)に抵触し、本件監査によって認められた事実に関して同基準3(1)、(2)及び4(4)に抵触していたこと、しかも、同基準4(2)の事項は、客観的に明らかな事項であって、反論、反証の余地のない事実であること、⑤同基準5の内容が相当程度に具体的で明確な内容をもっていること等を総合すると、本件については、仮に事前の聴聞手続を実施したとしても、決定に影響を及ぼす可能性がなく、加えるに同基準の対象事項の一部とはいえ、事前の聴聞手続が実施されたと同視し得る程度に、実質的な主張立証の機会が与えられていた場合であると認められるのであって、結局、本件申請について事前の聴聞手続を実施しなかったことは、本件処分の取消事由となる瑕疵とはならないと解するのが相当である。

三争点2(増車基準7(2)の適用をしなかった違法の存否)について

本件受付基準及び増車基準は、同一期間における当該地域の需要供給関係、申請事業者の経営成績等の判定をすることにより、申請事案相互間における審査を公平かつ迅速に行うことを可能にして、需要最盛期までに処分を行おうとするものであるところ、特殊な需要に応じる事案等については、受付基準3(2)、増車基準7(2)及び(3)が設けられ、増車申請の受理及び審査の基準の一部を適用しないことができるとされている。これは、①寝台車、車椅子専用車に対する需要、専属契約の需要等の特殊な需要に応ずる事案(同基準7(2)に該当)、②当該増車申請の対象需要が一般タクシーの需要と異なり、特に公益上必要であって、かつ、一時的に発生する国民体育大会等の需要に応じる事案(同基準7(2)に該当)、又は③当該区域を事業区域とする全事業者の対応によって可能となる急激な需要増加への対応又は政策目的による増車事案(一括大量増車事案・同基準7(3)に該当)等の場合につき、右の各事案が、増車申請事案の相互間に競願関係の生じる可能性が低いか、仮に競願関係を生じたとしても、同一期間における当該地域の需給関係を考慮する必要性が少ないため申請事案相互間の審査の公平を欠くおそれが少ないと考えられ、あるいは、他のタクシー需要に与える影響が小さいと考えられるものであることから認められているもの(証人斉藤克己、弁論の全趣旨)であるところ、本件申請は、単に、午後七時から午前三時までの時間帯の増車であるというに過ぎず、右①又は②の事案ないしその類例とは認められない。そして、当該区域を事業区域とする全事業者の対応によって可能となる急激な需要増加等の有無にかかわらず、午後七時から午前三時までの時間帯の増車について、すべて特殊な需要に対応するものとして受付基準及び増車基準の一部を適用しないとすれば、運送法六条一項に掲げる各要件に関し、当該事業区域の需要関係、当該事業者の能力、事業計画の内容等を考慮し、各申請について個別に判断するものであるべき増車審査が、その判断において最も重要な当該地域の需給状況及び各事業者の能力等の要素を無視してなされることとなり、ひいては著しく適正かつ公平を欠いた判断になるといわざるをえず、結局、本件申請は、特殊な需要に対応するものとはいえないというべきである。

なお、原告は、関東運輸局東京、千葉各陸運支局の夜間の増車の基準ないし取扱いを指摘して、本件処分は不公平であると主張するが、右各陸運支局の取扱いは、労働力の確保が困難な状況下で首都圏の深夜の輸送力を確保する観点から、比較的需要の減少する土曜日及び日曜日の輸送力を深夜の輸送に振り替える手段として、増車を認める期間を限定して、当該事業区域のタクシー事業者に認められたいわゆるブルーラインタクシーの一括大量増車の事案に対するものと認められる(〈書証番号略〉弁論の全趣旨)。

なるほど、原告は、本件申請書(〈書証番号略〉)において、本件増車がブルーラインタクシーの増車である旨記載しているが、その申請書をみても、一括大量増車としてのいわゆるブルーラインタクシーに当たると認めることはできず、その実質は、原告一社か、せいぜい原告と同系列の三山タクシー株式会社の二社による増車申請に過ぎないものであることが認められ(証人斉藤克己、弁論の全趣旨)、したがって、本件処分が不公平であるとの原告の主張は、理由がない。

四争点3(運送法六条一項四号(同法一八条一項、二項)への適合を認めなかった違法の存否)について

1  増車基準3(原告の管理運営体制)について

原告は、同基準3(1)に関して、別紙監査結果のとおり、運行管理者の処理すべき事項のうち、運転者の過労防止の措置(同記載1)、点呼の実施(同記載2)、乗務記録の記載内容及び整理・保存(同記載3ないし5)、乗務員証の返還及び整理・保存(同記載7及び11)、乗務員台帳の作成及び記載内容(同記載9及び10)等並びに非常信号用具等の備え付け(同記載13)の六事項を的確に遂行しておらず、また、整備管理者の処理すべき事項のうち、運行前点検の実施結果に基づく運行可否の決定を的確に遂行していなかった(同記載16)。さらに、同基準3(2)に関して、新規採用者の指導教育を的確に遂行しておらず(同記載8)、同基準3(3)に関しても、増車車両に対する有資格者の運転者が確保されていることの挙証を全くしていなかった(〈書証番号略〉、証人島崎満雄)のであるから、被告が、原告には管理運営体制が整っていないものと認めたことは相当である。

なお、原告は、同基準3(1)のうち、運行管理者植原辰雄及び整備管理者飯野が被告の行う研修を受けていなかったこと(同記載6及び15)について、運行管理者の資格を有する飯野及び整備管理者の資格を有する竹内整備士がそれぞれ必要とされる昭和六二年度の研修を受けており、いずれも問題がない旨主張するが、運行管理者及び整備管理者の地位とその任務の重要性(運送法二五条の二、運輸規則三二条の二、道路運送車両法五〇条、五三条)にかんがみると、運行管理者及び整備管理者に選任され、その任務を遂行する地位にある者のすべてが研修を受けなければならないものと解するのが相当であり、原告の右主張は理由がない。

2  同基準4(原告の遵法精神)について

原告は、同基準4(2)に関して、「道路運送法に抵触する行為」による輸送施設の使用停止処分が問題とされているのであるから、使用停止処分の一切が問題となるものではなく、運送法の体系に照らして重大な違反行為による使用停止処分だけが同基準に該当するものと解釈すべきである旨主張するが、同法は、社会・経済の変化に迅速かつ適切に対応しながら、自動車運送事業における運行の安全を確保し、運送事業の適正な経営と発達を維持するべく、同法三〇条で運送事業者が遵守すべき事項の具体的な内容を運輸省令に委ねているのであって、同条による委任を受けた運輸省令を遵守することによって、はじめて自動車運送事業の適切な運営及び公正な競争の確保が図られ、道路運送事業に関する秩序が確立するものであること、そして、事業の適正かつ安全な運営を確保するうえで、遵守すべき事項を遵守しているという遵法精神が事業者に不可欠であることから、同基準4(2)が設けられていることに照らすと、同条により委任を受けて規定されている運輸規則等の運輸省令に違反して使用停止処分を受けた場合も同基準に該当するものというべきであり、本件停止処分も、前記のとおり運輸規則違反等によるものであるから、同基準に該当するものである。

また、同基準4(4)について、原告は、提出期限を経過しているのに、昭和六二、六三年度の営業報告書(昭和六二年三月三〇日から同年九月三〇日までの分)を提出していなかった(証人飯野伸)。そして、その原因が、当時会社更生手続中の原告が、昭和六二年五月二一日に更生計画認可となり、同年一〇月三一日の更生手続終結までの決算時期が変更になったためであること、また、原告がその間も裁判所の監督下にあり、被告から右提出のないことについての指摘を受けなかったこと、原告が昭和六一年三月三〇日ないし昭和六二年三月二九日分の営業報告書を同年一〇月二三日付けで、同年一〇月一日ないし昭和六三年九月三〇日分の営業報告書を平成元年五月二四日付けでそれぞれ提出していたこと等の事情が存した(〈書証番号略〉、証人飯野伸)としても、遵守すべきことが遵守されていないという点に変わりはなく、同基準4(4)に該当するものである。

以上の事実から、被告が、原告の事業者としての遵法精神が欠如しているものと認めたことは相当である。

3  同基準5(原告の資金計画)について

本件申請には、「自己資金ならびに金融機関借入金」と記入されているのみで、これに関する書類が添付されておらず、その挙証が全くされていなかった(〈書証番号略〉)のであるから、被告が、原告において合理的かつ確実な資金計画を有しているものと認めなかったことは相当である。

4  同基準6(損害賠償能力)について

本件申請には、任意保険又は共済に加入する計画に関する書類の添付がないうえ、申請時にそれに代わる口頭の補足もないなど、同基準6についての挙証が全くされていなかったし、また、原告の前記営業報告書が未提出であった(〈書証番号略〉、弁論の全趣旨)のであるから、被告が、原告において損害賠償能力を有しているものと認めなかったことは、相当である。

したがって、同基準3ないし6の要件を欠き、運送法六条一項四号に適合しないとした本件処分は、相当である。

第四結論

以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官川波利明 裁判官佐々木宗啓 裁判官髙橋祥子は、職務代行を解かれたため、署名捺印することができない。裁判長裁判官川波利明)

別紙申請理由

最近の高崎市内における白タク業者の行動は、市内中心部の道路上に不法駐車し、無免許による客待ち、輸送行為などのタクシー業務を平然と行なって居ります。

その車両数は、二〇〇余台にものぼって居り、この車両が常に駐停車禁止の路上を占拠しているために、夜間における繁華街の交通秩序は大きく混乱して居ります。

また、白タクによる悲惨な死亡事故も過去において発生して居り、これに加えてこの売上金の相当額が非社会的な組織や集団の資金源になって居ります。

現在の白タク運転者は第一種自動車運転免許者であり、今後ともこのような違法行為が平然と継続されるならば、未熟な運転による乗客輸送に起因する悲惨な交通事故も起り得るであろうし、交通秩序の阻害行為に起因する様々な要因は治安の悪化につながり、大きな社会問題へと進展してまいりましょう。

これらの白タク業者の多くは表看板として運転代行業を掲げる者が多く、実質的にはなんらタクシーと変わらない乗客輸送を行なっているのが実情であります。

この乗客輸送の需要をまかなうためには正規の免許を受けたタクシー事業者が輸送の供給力を増すことが妥当であり、この主旨に添って本増車の申請を致します。

尚、本増車車両は現在の白タクの営業時間内である午後七時より午前三時の時間帯に運行するブルーラインタクシーであり、すみやかなる許可をされることをお願い致します。

別紙監査結果

1 運転者の過労防止に関する措置が不適正であり、仕業間の休業を十分とらずに乗務していた者があったこと(自動車運送事業等運輸規則(以下「運輸規則」という。)二一条)

具体的には、拘束時間が一八時間の場合には、仕業間の休養を連続して二〇時間以上与えなければならないところ、一五時間しか与えていなかった。

2 点呼の実施及び実施結果の記録が不適切であったこと(同規則二二条)

具体的には、運行管理者及び代務者が出勤する前に一部の運転者が出庫しており、確実な点呼を実施しておらず、また、点呼記録に運転者に対する注意事項等の記録がなかった。

3 乗務記録に次の事項が記載されていないものがあり、かつ、不実記載があったこと(同規則二二条の二)

ア 乗務の開始及び終了の時刻

イ 休憩又は仮眠をした地点及び時間

ウ 出庫・入庫の時刻

エ 走行距離計に表示されている走行距離の積算キロ数

具体的には、昭和六三年八月一日から同月三一日までの間を調査したところ、乗務開始の時刻記入のないもの等があった。

4 乗務記録の様式が不適切であったこと(同条)

具体的には、乗務開始及び終了の時間を記録する箇所がなく、出社、退社の時間を記入するようになっていた。

5 乗務記録を事業用自動車ごとに整理、保存していなかったこと(同条)

具体的には、乗務記録を日毎に整理・保存していた。

6 運行管理者が陸運支局長の行う研修を受けていなかったこと(同規則二五条の四)

具体的には、運行管理者植原辰雄が、昭和六二年度の運行管理者研修を受けていなかった。

7 運行管理者に対する指導監督が不適切であり、乗務員証の返還をさせていないものがあったこと(同規則二五条の五の二、三二条の二)

具体的には、運転者の乗務員証は、運転者三八名のうち、出庫している一六名分を除く二二名分の保管が必要であるが、一一名分しか保管されておらず、一一名分について返還されていなかった。

8 新たに雇い入れた者で、所定の指導教育を実施していない者を事業用自動車の運転者として選任していたこと(同規則二五条の七)

具体的には、新任運転者のうち、再雇用者については、全く教育をせずに乗務させ、新規雇用者についても、実地教育という名目で乗務させていた。

9 乗務員台帳の作成がないものがあったこと(同規則二五条の八)

具体的には、運転日報上乗務員として乗務しているにもかかわらず、乗務員台帳が作成されていなかった。

10 乗務員台帳について、次の事項に関する措置が不適切であったこと(同条)

ア 写真の撮影年月日の記載

イ 事業者の名称の記載

ウ 運転者の氏名の記載

エ 運転者に選任された年月日の記載

オ 運転免許証の有効期限の記載

カ 運転免許の年月日の記載

キ 運転免許の条件の記載

ク 運転者でなくなった年月日の記載

具体的には、運転免許の有効期間の記載のないものが二四名あったほか、事業者名の記載のないもの等があった。

11 乗務員証について、次の事項に関する措置が不適切であったこと(同条)

ア 事業者の名称の記載

イ 運転免許証の有効期限の記載

ウ 写真の撮影年月日の記載

エ 作成年月日の記載

オ 整理、保存

具体的には、確認した乗務員証の一一枚のうち、運転免許の有効期限の記入のないものが九枚あったほか、事業者名の記載のないもの等があった。

12 車内掲示をしていない事業用自動車があったこと(同規則二八条)

具体的には、調査した一八両のうち、運賃割増の表示をしていないものが一二両、自動車登録番号の掲示をしていないものが一両あった。

13 応急用器具、非常信号用具の備付けがない事業用自動車があったこと(同規則二九条)

具体的には、発煙筒、応急用具が備え付けられていない車両があった。

14 車内消毒を実施した旨の表示のない事業用自動車があったこと(同規則三〇条)

具体的には、確認した一八両のすべてが、消毒済みの表示をしていなかった。

15 整備管理者が運輸局長の行なう研修を受けていなかったこと(同規則三一条の二)

具体的には、整備管理者である飯野伸が、昭和六二年度の運輸局長が行なう研修を受けていなかった。

16 運行前点検の実施結果に基づく運行可否の決定を怠った事業用自動車があったこと(道路運送車両法五〇条、同法施行規則三二条、運輸規則三一条)

具体的には、運転者が運行前点検を実施しただけで、整備管理者による運行可否の決定を受けずにそのまま出庫している車両があった。

別紙増車基準

1 経営成績

(1) 実働率

申請者の実働率(日曜等の実働率が地域の需要実態に応じて低くなっている場合においては、これらの日を除外して計算した数値とする。以下同じ。)及び増車申請営業所の実働率が九五パーセント以上であること。

ただし、最低車両数(「一般乗用旅客自動車運送事業(一人一車制個人タクシーを除く。)経営免許申請事案の審査基準」(昭和六二年三月一四日付け公示。以下「免許基準」という。)の2に定める車両数をいう。以下同じ。)未満の申請者にあっては、九〇パーセント以上とする。

(2) 日車実車キロ(別表の交通圏について適用する。)

申請者の日車実車キロ(実働一日一車当たりの実車キロをいう。以下同じ。)及び増車申請営業所の日車実車キロが別表の数値以上であること。

(別表上、群馬県前橋・高崎交通圏、太田交通圏、伊勢崎交通圏、桐生交通圏、館林交通圏の実車キロは、一車二人制(隔日勤務)で一三〇キロメートル、二車三人制で一〇七キロメートルとされている。)

2 年間認可車両数

申請者の保有車両数の一〇パーセント以内(端数は切上げる。)とする。

ただし、最低車両数未満の事業者については、この限りでない。

3 管理運営体制

(1) 事業の適正な運営を確保するため、必要な管理運営体制を整え、かつ、事業計画に応じて常時勤務する有資格の運行管理者及び整備管理者が確保されており(一営業所五両以上の場合のみ。)、処理すべき事項が的確に遂行されていること。

(2) 従業員に対する指導教育が的確に実施されており、かつ、苦情等が多発していないこと。

(3) 事業計画を遂行するに足る有資格の運転者が確保されていること。

4 遵法精神

(1) 申請者が、道路運送法に抵触する行為により事業の停止処分を受けた場合、その処分の終了後二年を経過していること。

(2) 申請者が、道路運送法に抵触する行為により運送施設の使用停止処分を受けた場合、その処分の終了後一年を経過していること。

(3) 申請者が、道路運送法に抵触する行為により事業の改善警告を受けた場合、その警告された事項が改善されていること。

(4) 申請者が、自動車運送事業報告規則(昭和三九年三月三一日運輸省令第二一号)に基づく各報告書の提出を適切に行なっていること。

5 車令等

関東運輸局長が公示した免許基準の3から5までの規定を準用する。

なお、本件に関するものは、同基準のうち、5(1)である。

5 所要資金

(1) 所要資金の見積もりが適切なものであり、かつ、資金計画が合理的かつ確実なものであること。

6 損害賠償能力及び挙証等

免許基準の8及び9を準用する。

8 損害賠償能力

対人(一名につき)八〇〇〇万円以上の任意保険又は共済に計画車両のすべてが加入する計画であること。

ただし、上記と同等の損害賠償能力があると認められる場合は、この限りでない。

9 挙証等

申請内容について、客観的な挙証があり、かつ、合理的な陳述がなされるものであること。

7 その他

(1) 新規免許を受けた事業者にあっては、運輸開始後一年を経過していること。

(2) 特殊な需要に応ずる事案、臨時増車その他特に公益上必要のある事案等この基準によることが適当でないと認められるものについては、この基準の一部を適用しないことがある。

(3) 免許申請と競願の場合、一括大量増車の場合においては、この基準の一部を適用しないことがある。

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